中田日記|21年5月2日、3日

5月2日

雨風が強い。今日もドーナツを運ぶ。緊張したけれど、運転もなんとか、カフェのスタッフの方へのごあいさつもなんとかできた。昨晩からお腹の調子が悪く、家に帰って、ラスクの袋に絵を描いたあとは休憩。ドーナツがゴジラみたいになっている絵を描いたり、カメラロールを見返して猫の絵を描いたり、うまくはないしアイデアもないけれど、絵を描くことが楽しくなってきた。耕さんが毎回褒めてくれるので、それがうれしくて描いているような気もする。

時々、二階から一階に降りていく、階段の真ん中くらいでぶわぁっと、今じゃない、いつかの自分に戻るような匂いがすることがある。この家が、まだ自分の生活の場ではなかった頃の、うれしいような、心細いような、いったりきたりの気持ちがよみがえる。耕さんの匂いは、いつの間にか自分の匂いにもなっていて、それは少しもったいないことのようにも思う。

5月3日

ドーナツを運ぶ、3日目。森山直太朗の「とは」と「金色の空」を繰り返し聴きながら車を走らせる。店の買い物(佐渡牛乳3本、たまご1パック)を済ませ、店に戻ってラスクの袋詰め。連休の真ん中、今日はお客さんが多い。思い立って、お昼にちょぼくりでお蕎麦を食べようと、お父さんに声をかける。手打ちの十割蕎麦はもちろんおいしいけれど、添えられたおかずが本当に本当においしいのだ。今日は、たけのことふきの煮物、沢庵、蕨の漬物だった。しみじみうまい。お母さんに、「おいしいです」と伝えたら「ああ、そう、おいしい、ああ、そう」と言いながら滑るように厨房に入っていった。その後は店番をしたり、伊藤さんと喋ったり、武藤さんと喋ったりして過ごす。武藤さんが教えてくれた、きびぜんざいというものを食べてみたい。これも、ちょぼくりのお母さんが作るものだそう。温泉に行こうと話していたけれど、遅くなってしまったので、家でお風呂を焚くことにする。耕さんがお風呂係、わたしは夕飯を作る係。お味噌汁と豚キムチを作って、冷凍ごはんをチンして食べた。

猫を見ると、斎藤環さんの「亡き王女(猫)のための当事者研究」を思い出す。昨日読んで、度々読み返している。「狂気のきわめつけは、私たちの経験したいくつかの幸運を、全て彼女がもたらしてくれと確信していることだ」

ゆきの
愛媛県出身・新潟県佐渡市在住。元書店員。現在はアルバイト(鮮魚コーナー)。